こんにちは。腰痛治療家で理学療法士の平林です。
「これだけ体操」は、東京大学の松平浩(まつだいら・こう)医師が考案した、1回数秒からできる腰痛体操です。基本は「腰をゆっくり反らす」だけのシンプルな運動で、デスクワークなどで前かがみ姿勢が続く方の腰痛改善・予防に役立つことが期待できます。
この記事では、これだけ体操の正しいやり方3種類と、効果が期待できる理由、やってはいけないケースまでを、理学療法士の視点で解説します。私自身もデスクワークの合間に実践している体操なので、体験も交えてお伝えしますね。
これだけ体操とは?松平浩医師が考案した腰痛体操
これだけ体操とは、東京大学医学部附属病院の特任准教授(当時)である松平浩医師が考案した、簡単に行える腰痛体操です。
世界的に有名な腰痛治療の考え方である「マッケンジー法」のコンセプトをもとに、一般の方でも自分で手軽に行えるように工夫されています。
体操は腰を反らす運動を中心に、合計3種類あります。
- 腰を反らす運動(基本)
- 腰を横に曲げる運動
- 腰をかがめる運動
この3種類の中から、自分に合った1〜2種目を行うだけ。これが「これだけ」と命名された所以でしょう。
これだけ体操は腰痛に効果があるのか?研究結果を紹介
これだけ体操は、継続することで腰痛の改善・予防効果が期待できると研究で報告されています。
代表的なのが、介護の職場で介護職員に導入した研究です。1年後に、体操を行わなかった人に比べて腰痛が有意に改善したという結果が複数得られています。統計的にも裏付けのある体操なので、試してみる価値は十分にあると言えるでしょう。
すべての腰痛に効くわけではない点に注意
ただし、これだけ体操は万能ではありません。どんな腰痛にも効果があるわけではない、という点は知っておいてください。
腰痛は、その約85%が原因を特定できない「非特異的腰痛」とされています。原因が様々である以上、これだけ体操が適さない状態もあります。
- 腰を反らすと痛みが強くなるタイプの腰痛
- 体操レベルでは対応できない重度の障害
- 骨や関節に問題があるスポーツ由来の腰痛(後述)
だからこそ、これだけ体操は反らす運動だけでなく、横に曲げる・かがめるを含む3方向の運動が用意されています。自分に合った方向を選ぶことで、効果が得られる確率を高める合理的な設計になっているのです。
これだけ体操のやり方|基本は腰を反らす運動から
これだけ体操の基本のやり方は、「足を肩幅に開いて立ち、両手をお尻に当てて、息を吐きながら骨盤を前に押し込むように上体をゆっくり反らし、3秒キープして戻す」です。
なぜ反らすのかを理解すると、体操の意味がよくわかります。これだけ体操は、背骨の椎間板の中にある「髄核(ずいかく)」の動きに着目したものです。
前かがみ姿勢が続くと、椎間板の前方にストレスがかかり、髄核は後方へ移動しやすくなります。髄核が後方へ押し出された状態が進むと、椎間板ヘルニアの一因になることもあります。この移動をリセットして中央へ戻そう、というのがこれだけ体操の基本的な考え方です。
基本のやり方|腰を反らす運動の手順
- 足を肩幅よりやや広めに開いて立つ
- 両手をお尻(骨盤の上あたり)に当てる
- 息を吐きながら、骨盤を前へ押し込むようにゆっくり上体を反らす
- 反らした位置で3秒ほどキープし、ゆっくり戻す
これを1〜2回、こまめに行います。デスクワークや中腰作業の合間など、前かがみ姿勢が続いたタイミングで行うのがおすすめです。
私自身もデスクワークの途中に反らす方向の体操を行っていて、腰の重だるさが軽くなる感覚があります。臨床でも、長時間の座り仕事の患者さんに姿勢リセットの習慣として指導することが多い運動です。
なお、反らしたときに痛みやしびれが強くなる場合は、無理をせず中止してください。合わない方向の運動を続けると悪化につながる恐れがあります。
腰を横に曲げる運動のやり方
髄核は後方だけでなく、左右方向へも移動することがあります。腰を横に曲げる運動で、左右への偏りをリセットしましょう。
- 足を肩幅に開いて立ち、片手を骨盤の横に当てる
- 骨盤を横から押し込むように、上体を反対側へゆっくりスライドさせる
- 3秒キープして戻す
左右同じ力加減で行ってみて、「きつい」と感じる方向を中心に行います。いつも同じ方向に横座りをしている方などには有効で、普段曲げていない方向へ曲げる練習になります。
腰をかがめる(前に曲げる)運動のやり方
反り腰気味の方や、ハイヒールを履いて立ち仕事をしている方には、かがめる方向の体操が向いています。
- 椅子に座るか立った状態で、ゆっくり上体を前に倒す
- 腰の伸びを感じる位置で3秒キープし、戻す
反り腰になると椎間板の後方へ力がかかり、髄核が前方へ移動します。時々前屈して、髄核を後方へ押し戻すイメージです。
体操より大事なのは日ごろの姿勢
3種類の体操を適切に行えば、髄核の偏った移動を抑えることが期待できます。ただし「体操をすればリセットできるから姿勢は気にしなくていい」とは考えないでください。
日ごろから、できるだけ髄核が移動しない姿勢をキープすることが基本です。腰が曲がりすぎない、反りすぎない、ちょうど良い位置を意識しましょう。体操はあくまで補助です。
姿勢や運動を含めた腰痛対策の全体像は、腰痛の治し方とストレッチのポイントの記事でも解説していますので、あわせて参考にしてください。
これだけ体操が向いている人・向いていない人
これだけ体操(特に反らす運動)が向いているのは、椎間板に偏った力がかかりがちな、前かがみ姿勢が長く続く人です。
- 事務系デスクワーク
- 中腰での作業
- 力仕事(運搬・工事・介護など)
- 椅子に腰かけての作業
- 自動車等の運転
- 妊婦の方(体調と相談のうえ無理のない範囲で)
一方、椎間板に痛みの原因がない場合は、効果を感じにくいこともあります。
特に注意してほしいのが、成長期に激しいスポーツを行っている人です。この場合、椎間板ではなく椎骨後方の関節や骨にストレスがかかって痛みが出ていることがあり、繰り返しの負荷で疲労骨折(腰椎分離症)に至ることもあります。この症状は無理な「腰を反らす」動きで悪化する恐れがあるため、反らす体操は逆効果になりかねません。
スポーツをしていて腰痛がある人は、自己判断で体操を始める前に、スポーツ障害を扱う病院やクリニックで専門の医師のアドバイスを受けてください。腰痛の原因を正しく把握してから、適した運動を行うことが大切です。
そもそも「腰痛に運動は効くのか?」という点が気になる方は、運動は腰痛改善に効果があるのかを解説した記事も参考になると思います。
よくある質問
これだけ体操は1日何回やればいいですか?
基本は1〜2回の動作をこまめに行うスタイルで、回数のノルマはありません。前かがみ姿勢が続いた後や作業の区切りなど、1日数回を目安に習慣化するのがおすすめです。たくさんやれば早く良くなるものではないので、痛みのない範囲で継続することを優先してください。
これだけ体操で痛みが出たらどうすればいいですか?
すぐに中止してください。反らして痛みやしびれが強くなる場合、その方向の運動が合っていない可能性があります。横に曲げる・かがめるなど別方向を試すか、それでも痛む場合は整形外科など医療機関で原因を確認しましょう。特に、足のしびれが進行する、排尿・排便の異常がある、安静にしていても痛みが続くといった症状がある場合は、体操では対応できない病気が隠れていることがあるため、早めに医療機関を受診してください。
椎間板ヘルニアがあってもこれだけ体操をしてよいですか?
自己判断では始めず、主治医や担当の理学療法士に相談してから行ってください。これだけ体操は髄核の移動に着目した体操なので、椎間板由来の腰痛と相性が良い場合もありますが、ヘルニアの状態によっては反らす動きで症状が悪化することもあります。診断を受けている方は必ず専門家の指導のもとで行いましょう。
まとめ|これだけ体操は自分に合った方向を選んで続けよう
今回は、松平浩医師が考案した「これだけ体操」のやり方と効果について紹介しました。
- これだけ体操は椎間板の髄核の移動に着目した腰痛体操
- 基本は腰を反らす運動。横に曲げる・かがめるを含めて3種類
- 研究でも腰痛改善効果が報告されているが、万能ではない
- 痛みが強くなる場合は中止し、スポーツ由来の腰痛は専門医に相談
- 体操とあわせて、日ごろの姿勢を整えることが大切
腰痛の原因は人それぞれです。自分に合った体操を選択して、無理のない内容で継続していきましょう。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療の代わりになるものではありません。症状が続く場合や強い痛み・しびれがある場合は、整形外科など医療機関を受診してください。


